
「あれ、シンジ。お前あの子と一緒じゃなかったの?」
ジャンクを拾いに行った帰り、シンジはケンスケと出会い、そう言われた。
「え・・・・何の事?」
シンジは頚を傾げる。
「ほら、シンジの処にいる子だよ。
あのこ、さっきE- 区の方に走って行ったんだ。
俺は、シンジと一緒だと思ったからあんまり気にしてなかったんだけど・・・」
「・・・・・E- 区の方に・・・・、それ間違いない?
絶対、アスカだった?」
まさか、という思いが過る。
「ああ、間違いないよ、あんな目立つ子この辺にはいないからな、」
夕暮れはもう間近だ。
天気が悪ければ、なおさら夜は早くやって来る。
何処にいても、闇は危険をはらんでいるものだ。
それなのにアスカは、E-区に向かったという。
「ケンスケ悪い、この荷物預かっといて!」
「お、おい!シンジ!」
シンジはケンスケに荷物を押し付けると、走りだしていた。
********
アスカは以前来たことのあるジャンクの山で、
一人、山を崩していた。
薄暗くなり始めていることにも気が付かず、夢中になって
その作業を続ける。
この数日間の間に、アスカは何が売れるもので、何がただの
ジャンクなのか選別できるようになっていた。
それが、上等なものなのかどうかの見分けは
いささか怪しいものはあったが。
アスカは自分が拾ったジャンクを売り、それで食料を
手に入れるつもりだった。
自分はシンジばかりに依存しているのでは無いということを
誇示したかったのだ。
そして、自分が役に立つ人間だということを
シンジに認めさせたかった。
「きっとシンジ、驚くわね・・・・・」
集めたものを見詰め、アスカは満足そうに微笑む。
がらがらと、鉄屑を崩す音が辺りに響く。
作業に夢中になっているアスカは、背後に近づく気配に
気が付くことはなかった。
********
シンジはアスカの姿を求めて、E-St を走っていた。
E-区とB-区の境界線。
ここを境に、住む人間が変わる。
「アスカ・・・・・何処にいったんだよ・・・・!」
既に辺りは暗く、早くアスカを見つけださなければ
もう二度と彼女に会えなくなるかも知れない。
「アスカ!」
シンジはアスカの名前を呼んだ。
返事は無い。
壊れかけた建物の影で、こちらを伺う気配をシンジは感じていた。
それは、得体の知れない不気味さをもってシンジを取り巻く。
E- 区が目覚め始める。
急がなければ。
男のシンジですら、このE- 区は恐ろしいと感ずるのだ。
「アスカ!アスカ!何処にいるのさ!返事してよ!」
そう、遠くへは行っていないはずなのだ。
まさかE-区の中に迷い込んでしまったのではないだろうかと
シンジの中に新たな不安が芽生える。
「・・・・どうしよう・・・・・」
たまたま、出会っただけの少女だ。
自分が危険を冒してまで、探しにゆく必要があるのだろうか。
ふと、そんな思いが掠める。
アスカは、勝手に出ていったのだ。
ならば、もういいではないか。
シンジは強く頭を振った。
それでも、自分はアスカを探さなければならない。
同じ部屋で眠り、わずかな食料を分け合った。
今更、他人のふりはできない。
けれど、何処をどう探せばいいのかまるで検討がつかない。
「ちょっと、放しなさいよ!・・・・やめてってば!!」
聞き覚えのある声が、途方に暮れていたシンジの耳に飛び込んできた。
「!!アスカ!」
シンジは声が聞こえた方向に走った。
薄闇の中、
三人の男に囲まれたアスカがそこにいた。
一人の男がアスカの腕を掴んでいる。
「・・・・・・アスカ・・・・・」
シンジの足が竦む。
相手は三人だ。
体つきもシンジの倍はある。
シンジの心臓が早鐘のように打つ。
動こうとしても、体が動かない。
シンジは自分の力を知っていた。
決して適わないことは、試さなくても分かる。
「いやっ!ちょっとぉ!やめて!」
男は何かを言いながら、アスカを引き寄せた。
二人の男は笑っている。
アスカの声が耳の中で響く。
シンジは拳を握った。
大きく息を吸い込むと、アスカの腕を掴んでいる男に
突進していった。
不意をつかれた男は、シンジとアスカ共々ジャンクの山に
派手な音を立てて倒れ込んだ。
「うをぉ・・・・!」
「きゃっ・・・・・!」
体当たりされた男は、何が起きたのか理解できず
起き上がろうと、ジャンクの上でもがいている。
シンジは素早く立ち上がると、アスカの手を取った。
アスカは驚いてシンジを見上げている。
「シンジ・・・・!?」
「アスカ!早く立って!」
アスカはすぐに状況を察し、急いで立ち上がった。
走りだそうとしたシンジ達は、二人の男に行く手を阻まれる。
「おっと・・・・にがさねぇぜ・・・」
男達は不気味な笑を浮かべている。
「この・・・・餓鬼がぁ・・・・よくもやってくれたなぁ・・・」
そうしている間に、シンジが突き倒した男も起き上がってしまった。
「うそぉ・・・・やだ・・・」
アスカが小さく呟く。
シンジはごくりと唾を飲み下した。
この囲いを逃げだす術を考える。
焦れば焦るほど、良い考えは浮かばない。
男達との距離がじりじりと狭まってゆく。
「・・・アスカ、僕が男達にとびかかったら、何があっても
振り向かないで走って。いいね、」
そっとアスカに囁く。
「え・・・・どうするつもり?」
アスカはシンジの顔を見た。
今までに見たこともない、シンジの真剣な表情。
アスカは頷くしかない。
もう、シンジを信じるしか無いのだ。
同じ手が二度も通じるか分からなかったが、シンジは目の前の
二人に飛び掛かっていった。
拳を振り上げ、男に殴り掛かる。
男を倒すことは出来なくとも、多少の隙が出来るかも知れない。
その間に、アスカだけでもこの囲いを突破できればいいと
思ったのだ。
が、男はあっさりとシンジを躱した。
シンジは男の動きを少しでも封じようと、必死に男にしがみつく。
「シンジ!」
「いいから!早く走れよ!」
アスカは弾けたように走りだす。
もう一人の男がアスカを捕らえようとしたが、アスカは
するりとそれを躱した。
後は振り返らずに走った。
シンジに言われた通りに。
”どうしよう、早く誰か・・・誰かを・・・・”
********
「よくも、やってくれたなぁ、ぼうず・・・・・」
男の一人が後ろからシンジを羽交い締めにした。
がっちりと押さえ込まれ、その腕を振りきることが出来ない。
シンジは目の前の男を睨み付ける。
それが彼の出来る唯一つの抵抗だった。
三人目の男が、顔を上げたシンジの頤を掴む。
「へぇ・・・・こりゃあ、なかなか・・・・」
男は舐めるようにシンジを見た。
その視線にシンジは唯ならぬものを感じる。
背筋に悪寒が走った。
「な・・・・なんだよ・・・・」
喉が詰まって声がうまくでない。
顔を背けようとしたが、男の手はそれを許さなかった。
そしてシンジは知るのだ。
彼らの望んでいることを。
男達の目付きは何よりも雄弁に、それを物語っている。
全身が粟立つ。
「や・・・嫌だ、放せっ・・・・!」
「いいじゃねぇか・・・・なあ・・・」
男達は淫猥な笑いを浮かべた。
何とか逃れようとシンジが必死でもがく。
じたばたさせたシンジの足が、男の脛を蹴り飛ばした。
そして僅かに男の腕が緩んだとき、シンジはすかさず
腕に強く噛みついた。
「痛っ!!!大人しくしやがれ、このっ・・・・!」
男はシンジの顔を殴りつけ、地面に押し倒した。
「かまわねえから、とっとと犯っちまおうぜ!」
「やめろ!僕に触るな!放せよっ!!」
欲望を剥き出しにした男は、シンジに馬乗りになると
シャツに手を掛け、一気に引き裂いた。
二人の男は、にやにやしながらその様子を見下ろしている。
「早く済ませてくれよ、後がつかえているんだからなぁ・・・!」
シンジは恐ろしさに声も出せなかった。
ぎらつく男の視線。
体を這い回る手に、シンジの四肢が強張る。
”嫌だ!嫌だ!!嫌だ!!!嫌だ!!!嫌だぁ!!!”
自分の体を勝手にしている男の手を掴み、爪を立てる。
「つっ・・・・!いい加減に、大人しくしろ!」
「あうっ!」
男は拳で、シンジを二度殴り付けた。
口の中が切れたようだった。
鉄の味が広がる。
シンジは己の無力を、嫌というほど思い知った。
自分自身すら守ることも出来ない、弱い男。
父の顔が脳裏を過る。
父の処にさえいれば、こんな目に合うこともなかった。
日々ジャンクを拾って歩くこともせずに済んだ。
こんな思いをしてまで、逃げだす必要があったのだろうか?
父から逃げだして、自分は一体何がしたかったんだろうか?
抵抗することに疲れたシンジは何もかも諦め、
腕をぱたりと下ろした。
アスカは無事にB-区まで逃げおおせただろうか。
少なくとも、アスカがこんな目に合っているよりは
ずっといい。
「なんだ、はじめっからそうやって大人しくしてりゃ、痛い思いを
しないで済んだんだぜ・・・・」
男がズボンの前を開き、その猛る欲望を露にした。
それは何か、不気味な生き物のようにシンジの目に映った。
男の舌が、体を舐め上げる。
ヒクリ、とシンジは喉を反らす。
全身に悪寒が走った。
吐き気すら覚える。
「う・・・・い、嫌だぁ!放せぇ!!!
放せってばぁ!」
再び、シンジは抵抗を始める。
無駄なことだということは、十分すぎるほどに解っていた。
逃げられるものなら、とっくに逃げ出せている。
それでも、こんなことは耐えられなかった。
「まだ、諦めてなかったのか?往生際が悪いぜ・・・・」
立っていた男の一人がシンジの両腕を掴み、押さえ付けた。
「うるさいその口も塞いでやれや、」
「いいな、でも噛みつかれちゃ、かなわねぇからな・・・」
「歯をへし折ってやりゃぁいいのさ、」
馬乗りになった男は、シンジの髪を鷲掴みにする。
「・・・・ううっ、やだ、やめて・・・触らないでよ・・・・!」
「残念だけど、そこまでだよ、」
凛とした声が響く。
その瞬間、
男達の表情が強張ったのが、シンジにもはっきり分かった。
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